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「車載用燃料電池の今後の展開」
~技術的開発課題に対応する分析試験技術~

カーボンニュートラル対策の一つとして、燃料電池技術の開発と車載等への利用が推進されています。クリアライズでは、燃料電池技術をサポートする各種分析・試験サービスを提供しておりますが、2021年9月よりテクニカルアドバイザーとして東山和寿氏をお迎えしました。 今回は、「車載用燃料電池の今後の展開」と題し、燃料電池の技術的開発課題やそれらに対応する分析試験技術についてお聞きいたしました。
ひがしやまかずとし
東山 和寿氏
PROFILE 株式会社クリアライズ テクニカルアドバイザー、山梨大学 客員教授。工学博士。1955年青森県生まれ66歳。1983年東北大学大学院博士課程修了後、日立製作所入社。日立研究所や電力電機開発研究所で燃料電池、超電導、自動車用触媒など材料分野の研究室長、部長を歴任。2008年から山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター セラミック研究部門長 特任教授として水素製造触媒や電極触媒の研究に従事。2020年に退職し現在に至る。趣味はドライブとトレッキング、今は健康維持のため日々の散歩を欠かさない。

Q1.自動車に燃料電池が搭載されるようになって少しずつ燃料電池が身近に感じられるようになりましたが、まだまだ知らない方も多いようです。燃料電池を簡単に説明いただけますか?

(東山氏) 自動車に搭載される(固体高分子形)燃料電池を簡単に表現すれば、クリーンで高効率な新しい発電「器」でしょうか。電池と言う名前で呼ばれますが、リチウムイオン電池の様に予め充電しておく必要はありません。燃料電池という「器」の中に燃料の水素と空気を流すことで、電気を取り続けることができます。その意味で、病院等の非常用電源に使われているエンジン式発電機に近いのですが、可動部がなく静かで発電効率が高いという点と、有害ガスや二酸化炭素を一切出さないという点が大きな特徴です。

東山氏
 

Q2.「カーボンニュートラル」が地球規模の課題となる今、水素エネルギーの活用が注目されていますが、燃料電池はどのような位置づけになるとお考えですか?

 

(東山氏) 将来の水素社会のキーデバイスと目されています。日本政府は2018年のエネルギー基本計画で水素社会実現に向けた取組の強化を謳っています。CO2排出ゼロをめざす水素社会では、太陽光や風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギー由来の電力の比率を増し、石油、天然ガスなどの化石燃料をCO2の発生のない水素に置き換えることを想定しています。このような社会では家庭用コジェネシステム(エネファーム)や乗用車、バス、トラック、列車、船舶などの電源として燃料電池が広く使用されることになるでしょう。再生可能エネルギー由来の発電には時間・季節変動が必ず伴います。平準化のため余剰電力で水素を作製することが考えられていますが、ここで使用されるのも燃料電池を逆作動させる水の電気分解装置なのです。

 

Q3.車載などの用途において、燃料電池は進化していくと思いますが、今後の展開・方向性をご教示ください。

 

(東山氏)これまで燃料電池車は国内で2社から製品化されています。私は両社の車に試乗しましたが、その静粛性と加速性能には驚かされました。車としてすばらしい仕上がりでした。ただ純粋にユーザーとしての感想ですが、補助金を差し引いた価格が500万円台はやはり高く、私共のような夫婦二人暮らしには車両サイズも少し大きいと感じました。燃料電池の最大出力密度(=出力/容積)はガソリンエンジンのまだ半分ということで、軽・小・中型車への搭載のためには、電池性能の一層の向上とコスト削減の努力が待たれるところです。2030~35年にかけて日、米、欧、中国ではCO2排出削減のためガソリン車の販売規制が始まる予定です。燃料電池の開発は待ったなしの状況です。

 

Q4.今後燃料電池が進化するうえで、技術的な開発課題はどのようなところにあるとお思いですか?

(東山氏) 今から2年ほど前ですが、自動車用燃料電池に関係する研究者やエンジニアにとって印象深いフォーラムが東京で開催されました。NEDO*1)主催のそのフォーラムでは、当時すでに上市されていた国内二社の燃料電池車について、実走行に伴い燃料電池に発生した技術的問題点が報告されたのです。競合する両社の研究者が同時に壇上に登り、本来社外秘である技術情報を一緒に公開するという前代未聞の出来事でした。300人余りの参加者による発表後の質問と討論は熱を帯び1時間以上続いたと思います。 *1) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

 

Q5.それはすごい会議でしたね。具体的にはどんな課題が報告されたのですか?

(東山氏) そこで公開された内容は今でもWebで閲覧できますが、技術課題の多くは、燃料電池のコア材料である“高分子電解質膜”と“電極触媒”部分の耐久性や性能不足に係わるものでした。採取した材料の詳細な分析評価から、既に劣化メカニズムや性能不足の原因がある程度解明ないしは推定されていました。これら困難な課題に対して各研究機関や材料メーカーが具体的解決策を研究し、提案して欲しいという内容でした。

 

Q6.今後の燃料電池の分野ではどんな分析・試験技術が必要になるとお考えですか?

(東山氏) 燃料電池は多くの金属、セラミックス、有機材料の複合部材で構成されていますから、その分析評価には幅広い技術と専門性が求められます。また各部材は、強酸性・高電位・酸化/還元/高湿度雰囲気などの過酷な条件に曝されます。特に燃料電池車は現在黎明期にありますので、使用される材料やその動作条件もまだまだ大きく変化することが予想されます。分析評価技術は、このような大きな変化にも対応していかなければいけません。私が在職していた燃料電池ナノ材料研究センターでは、研究の進捗と共に分析評価装置の部分改造や特注仕様の装置試作が頻繁に行われていました。具体的にどの分析技術が必要というよりは、分析評価に対する柔軟な取組姿勢が重要なのだと思います。

 

Q7.最後に、弊社のテクニカルアドバイザーに就任されて、感じられたことや抱負がありましたらお聞かせ下さい。

(東山氏) クリアライズの第一テクニカルセンターの隣は、私が日立製作所に入社して最初に配属された研究室なんです。建物は既に取り壊されていましたが、40年を経たこの偶然には正直驚きました。私は、ここの職場を皮切りに退職するまで2つの研究所で15もの研究テーマを担当しました。その当時、クリアライズは日立グループの中で茨城地区の工場や日立研究所の分析センターの機能を果たしていて、私も研究テーマが変わるたびに新規材料の色々な分析や耐久試験、数値解析などで大変お世話になりました。また茨城地区の工場は火力・水力・原子力などの重電製品が中心なんですが、分析センターには、その信頼性を担保するための材料の長期耐久試験装置がズラリと並んでいたのを思い出します。テクニカルアドバイザーとしてひと月ほど新生クリアライズの職場で若い方々の仕事ぶりを拝見してきましたが、物性・化学・機械強度などの広範な分析技術だけでなく、仕事に対する起動力や集中力も当時と全然変わっていないな、DNAが脈々と引き継がれているなと感じました。そんな皆さんと40年ぶりにまた一緒に仕事ができることをとてもうれしく思います。燃料電池の分析を通じて共に社会に貢献できるよう努力したいと思います。

クリアライズ社員との技術カンファレンス
 

聞き手:企画マーケティングユニット 大津聡

   
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