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「将来につながる地球環境保護に寄与する腐食防食技術とその評価方法」

近年、地球温暖化、カーボンニュートラルなどの生活や環境の変化に伴い、私たちを取り巻く製品や構成する部品・材料も大きく変化しています。このような中、求められる材料の課題も多様化しており、その課題の一つが「腐食」です。
クリアライズでは、これらの課題をお客様が解決するお手伝いをするために「腐食評価」技術強化を図っておりますが、今回技術コンサルタントとして大橋健也氏を迎え、より一層の技術力アップを進めてまいります。
本トピックスでは、大橋健也氏に「将来につながる地球環境保護に寄与する腐食防食技術とその評価方法」についてお聞きしました。
おおはしけんや
大橋 健也氏
PROFILE 株式会社クリアライズ 腐食防食アドバイザー、工学博士。1958年宮城県生まれ65歳。1983年東京工業大学大学院修士課程修了後、日立製作所入社。日立研究所で原子力プラント、磁気記録装置、ポンプ、自動車部品等の材料分野の研究でグループリーダを務めたのち、全社の材料技術コンサルに従事。2002年から2016年まで宇都宮大、2004年から2023年まで茨城大の客員教授を兼務し、2023年退職。現在、ISO腐食分野の日本副委員長、知財高等裁判所専門委員を任ぜられている。趣味はテニスや野球だが、内臓脂肪増による腹筋減少が顕著で、減量を中心とした運動メニューを試行錯誤中。
 

Q1.【水素】カーボンニュートラルや地政学リスクを含め石油の代替エネルギーとして、水素が注目されています。特に車載燃料電池に関連する話題が多いと思いますが、材料への影響、研究開発上での注意点などを教えてください。

(大橋氏) SDGs(持続可能な開発目標)17のゴールのうち、7番目の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」と9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」に水素は直接かかわっています。水素をガソリンの代わりに燃焼させる水素エンジンや、水素と酸素を反応させ電気エネルギーとして用いる燃料電池車も開発中ですが、多くの課題が残されており、特に材料の信頼性確保が不可欠です。水素エンジンではエンジン材料への水素吸蔵によるシリンダ材の脆化、燃料電池では発電効率向上と長寿命化を可能にするコンポーネントと金属材料の開発が大きな課題です。水素脆化や高温での強度・酸化に対応した金属材料の評価はクリアライズの得意分野の一つと思いますので、金属のミクロな分析評価(TEM、SEM、EDS等)とマクロな特性(強度、硬度、腐食速度等)を結ぶアルゴリズムを持つことで、お客様の課題を先回りして提示できればと思います。

 

Q2.【アンモニア】エネルギー問題としては、化石燃料の代わりにアンモニアを燃焼させるプラントの実証試験が進んでいるとお聞きしています。一方で、アンモニアは腐食性が高いともお聞きしますが、適切な腐食防食技術や注意点、やっておいた方が良い評価試験等があれば教えてください。

 

(大橋氏) アンモニアも水素同様SDGsの主人公の一人です。かつて農業用液安(液体アンモニウム)貯蔵用タンクにおける鉄鋼材のSCC(応力腐食割れ)が大問題となり、化学プラントでも類似の事故が起きて注目され、防食技術の開発も進み、犠牲陽極法が有効です。現在は、水素エネルギーのキャリアや直接燃料としての利用が想定され、さらにはグリーンアンモニア電解合成のために、新しい触媒や電解質の開発も進められています。いずれにせよ設備の高耐食化が不可欠で、アンモニア雰囲気での暴露・浸漬試験とその後の表面分析が基本となります。加えて、液中での分極・インピーダンス計測による腐食速度の定量化と、表面処理による防食法の提案ができればと考えます。

 

Q3.【バイオ燃料】トラック、航空、船舶など電動化が難しいセクターでは、バイオ燃料の活用が重要だとお聞きします。一方で、配管などの材料腐食についての懸念も耳にしますが、対策方法などご教示いただけますか。

 

(大橋氏)ガソリン代替では穀物発酵や廃材分解醸造のエタノール、軽油代替では動植物の油脂の分解が代表格です。最近では藻から生成抽出される燃料もあり、石垣島で施設を見学させてもらったことがあります。従来の化石燃料と比較して腐食成分の混入や含水量の違いがあり、腐食に対する注意も必要です。丁寧な分析に基づきケース毎に防食法を提案すべきなので、材料選定、表面処理、電気防食の豊富な品揃えを準備しておきたいと思います。

 

Q4.【塩害】地球温暖化が進む中、エアコンの需要が伸びているとお聞きしています。特に、これまであまり必要としなかった海岸地域での需要が増え、室外機の塩害対策も重要とお聞きしています。近年の塩害対策と開発に必要な評価試験を教えてください。

(大橋氏) 塩害については、風力発電設備、太陽光発電設備等での研究経験があります。大気腐食促進試験法をISOに提案し、ISO16539(通称ACTE®)が規格となりました。この規格作成にあたっては、クリアライズの皆さんにご協力を頂いております。この時も全国のエアコン室外機を調べ、塩分付着が大きな要因であることを確認しています。手前味噌ですが、ACTE®法で評価することをお勧めします。高温多湿な海外向けでは、現地の気候データを参考にACTE®をモディファイすることもありました。

 

Q5.【加速試験】腐食試験は、比較的長い時間を費やすケースが多いと感じていますが、評価内容によっては加速試験が、可能なのでしょうか?

(大橋氏) 塩害と類似しますが、加速促進試験では実際の腐食形態と相違が少ないことが必須です。経過時間分を高温化や塩分増加で補おうとすると、実際は塗膜下腐食が10㎜直径の膨れとして点在するのに、加速試験条件では塗膜がはがれて全面腐食が生じるということもあります。これでは加速の意味がありません。経験的にはなりますが、腐食反応を加速促進する条件は材料毎、環境毎にあると考えられます。そのためのデータを蓄えることが重要と思います。ACTE®は既得データベースを背景とした加速腐食試験法(自動車メーカも多く持っていますが)の一例です。

 

Q6.【新素材】これから着目される材質や今後開発される材料で、現在気になっているモノはありますか?また、それらの材料に対して、腐食や防食の技術をどう活用することができるとお考えでしょうか?

(大橋氏) 構造材料としては二相ステンレス鋼(溶接部腐食)、CNT等の炭素系材料やCFRP(ガルバニック腐食)、電子材料ではAl、Cu配線材料(イオンマイグレーション)、ポーラス系層間膜(電解質拡散)やゲート膜(隙間腐食)の動向が気になります。また、Na電池やMg電池も電気化学的に興味深いです。今後、新素材開発や防食技術の開発に関しても、対話型AIの活用が急速に進むと想定されます。チャットGPTのようなアプリです。これにより人が考えるべきことを短時間で解決できるようになるかもしれません。そこでも重要なのは、高品位の情報・知識をどれだけ保持しているかです。腐食防食についてのデータは、このAI活用を支える知恵袋となるので、クリアライズにおける腐食データの蓄積は今後も重要です。大切にしたいと思います。

 

Q7.【クリアライズ】クリアライズの現在の印象と今後期待することを教えてください。

(大橋氏) 従来の日立関係の会社にいらっしゃった方々にお世話になり、知り合いも多いので、親しいと感じないわけにはいきません。会社自体には、外部に向けた発信「分析評価でクリアにする会社」を頑張っているという印象があります。今後、会社所掌の範囲に分析技術のみならず、コンサル対応や対話型AIにクリアライズのデータを取込んだ課題解決のシステム商品化などを加えられたらと期待しております。



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インタビュー/企画マーケティングユニット 大津聡

   
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