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「車載用二次電池の今後の展開」
~技術的開発課題に対応する分析試験技術~

世界中で自動車のEV化が加速する中、車載用二次電池に関する注目が集まっております。クリアライズでは、リチウムイオン電池等の二次電池技術をサポートする各種分析・試験サービスをご提供させていただいておりますが、皆様により一層のご愛好をいただくため、2021年9月よりテクニカルアドバイザーとして堀場達雄氏をお迎えしました。今回は、「車載用二次電池の今後の展開」と題し、リチウムイオン二次電池の技術的開発課題やそれらに対応する分析試験技術についてお聞きいたしました。
ほりば たつお
堀場 達雄氏
PROFILE
1974年(株)日立製作所入社。その後、新神戸電機(株)、日立ビークルエナジー(株)を経て、2011年に三重大学特任教授として転出し、東京理科大学教授を経て、現職は三重大学リサーチフェロー兼成蹊大学特別共同研究員である。その間、一貫して一次電池、二次電池、燃料電池などの電気化学エネルギー変換デバイスの研究開発に関わってきた。2000年には世界に先駆けて自動車用のリチウムイオン電池の実用化を成し遂げた。また、上記の職歴の間に、通商産業省工業技術院大阪工業技術研究所の流動研究員、九州大学非常勤講師、経済産業省産業構造審議会臨時委員、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の技術委員、公益社団法人電気化学会の各種委員などを歴任し、対外活動にも勤めてきた。
 

Q1.自動車に搭載されている電池というと鉛バッテリーを想像する方も多いと思います。最近よく聞くようになってきたリチウムイオン電池は、どのような点が違うのでしょうか?

 

(堀場氏) 自動車用の鉛電池は、SLIと言われるように、Starting, Lighting, Igniting、つまり始動時のセルモータの駆動、照明、点火プラグの作動が主要な機能とされてきました。また、近年の自動車の電子化の深化とともにそれに関連する部品のバックアップ電源としての重要性も増しています。しかしながら、その役割は自動車の主たる駆動力源であるエンジンの補助をすることに変わりはなく、「補助電源」と言われています。それに対して、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの電動化自動車において用いられるリチウムイオン電池はエンジンに代わる、あるいはエンジンと同等の車体の駆動力を発生するものとなっており、「主電源」と言われます。つまり、脇役が出世して主役の座に躍り出たことになります。

電池の性能についてみますと、鉛電池は一つの電池つまり単電池の電圧が2 Vであるのに対し、リチウムイオン電池はその2倍近い約4 Vを示します。そのため同じ電圧を得るのに単電池の数つまり部品点数を半減することができます。また、鉛が重金属であるのに対しリチウムは軽金属ですので、軽くて小さな高エネルギー密度の電池が得られ、自動車という重量や体積に制約の多い用途に適したものになります。

 
 

Q2.「カーボンニュートラル」が地球規模の課題となる今、自動車の電動化が注目されています。その中でLIBのような二次電池は、どのような位置づけになるとお考えですか?

 

(堀場氏)自動車の電動化は、自動車の低燃費化つまりCO2排出規制値がエンジン技術の改良だけでは不可能な水準まで高くなってきたため、何らかの形でエンジン駆動に電動機能を付加することが必須となって来たことにより加速されてきました。それに加えて、一足飛びにCO2を排出することのないゼロエミッションカーである電気自動車(EV)への転換が種々の要因により近年に急加速されました。

EVがガソリン自動車並みの性能を実現するには、高エネルギー密度の二次電池が求められます。現在利用できる実用電池のなかで最も高いエネルギー密度を有しているのは、リチウムイオン電池であり、その適用が進められています。しかし、リチウムイオン電池でも、ガソリン車並みの走行距離を確保することは現状では難しく、リチウムイオン電池のさらなる高エネルギー密度化の研究開発、あるいはリチウムイオン電池を凌駕する革新型二次電池への挑戦などが世界中で活発に進められています。

さらに、カーボンニュートラルのために太陽光や風力などの不規則かつ希薄な自然エネルギーを有効に利用するには、発電側からの供給と利用側の需要との間のズレを調整するための緩衝機能を何らかの蓄電装置に持たせることが必須となります。数ある蓄電技術の中でも拡張性に優れ、立地の制約の少ない二次電池蓄電技術が注目されています。とりわけリチウムイオン電池は、二次電池の中でエネルギー密度とエネルギー変換効率が最も高いため、その利用が期待されています。

 

Q3.リチウムイオン電池というと、スマートホンやノートパソコン等、私たちの生活の中でも身近なものとなっていますが、車載する上でのポイントを教えてください。

 

(堀場氏)ノートPCとEVの電池のエネルギー総量を比較すると、凡そ1000倍以上の差があります。また、単電池の大きさによりますが、電池の総数も数10倍から数100倍に増加します。これらの数量の違いが大きな質的な違いを生じます。

まず、総エネルギーが大きくなれば、異常時における排出エネルギーも大きくなり、重大な事象が懸念されますので安全性を確保することがキー技術になります。そのため、電池の状態検知、監視、制御の技術が極めて重要になります。また、エネルギー総量が大きくなれば排熱量も大きくなりますので、冷却を含めた熱管理技術が必須になり、それは電池の寿命と安全性の向上に大きく関わります。さらに多数の電池をできるだけ均一な充電状態(SOC)に維持して使用することが、電池の性能を最大限に引き出し、かつ長寿命にできることになりますので、このことからも電池の状態検知、監視、制御の技術の重要性が高くなります。

要するに電池は化学システムですが、EV用などの多数の単電池から構成される用途では、電気・電子工学、機械工学などの観点からの設計と管理が不可欠になること、つまりシステムとして理解とその技術が不可欠になることが大きな違いです。

 

Q4.これからも車載などの用途において、二次電池は進化続けると思いますが、今後の展開・方向性をご教示ください。

 

(堀場氏)現在のリチウムイオン電池とその発展形である次世代リチウムイオン電池が実用二次電池の主流であることは、当分の間は揺るがないと思われます。これまでは、電池の材料開発が電池技術の進歩の中核となって来ましたが、現在では飽和状態に近くなっています。地道な努力は今後も着実に継続されるものの、材料開発による大幅な進歩は望みにくい状況です。その代わりに、電池の設計や製法の点からの進歩や電池システム全体として性能向上が期待されます。一方、世上で喧伝される革新型二次電池の実用化には、まだかなりの時間を要するものと思われます。

 

Q5.今後二次電池が進化するうえで、技術的な開発課題はどのようなところにあるとお思いですか?また、その時にどんな分析・試験技術が必要になるとお考えですか?

 

(堀場氏)上に述べたように電池の製法やシステム化技術が重要になると思われますので、それに対応した分析・試験技術が必要になるわけです。そこには当然ながら従来と異なる切り口の技術が求められると思われます。しかし、それがどのようなものになるかは今後の技術の発展次第であって、予測しがたいところがあります。たとえば、システム全体の単電池の全点分析は無理でしょうから個と全体との対応がどのように確保できるかなどが簡単に分かれば有用な技術になります。

次世代リチウムイオン電池には従来法の他に新しいニーズに即した分析が必要になると思われます。さらに、革新型二次電池には個別の事情に応じた固有の分析技術が必要になることも考えられます。それらのうち金属-空気電池に関しては、燃料電池の分析に関する経験や知見が活用できる部分もあります。

またEVの普及とともに使用済み電池が大量に排出されてきますので、それらのリユース、リサイクルも喫緊の課題となってきます。そのための第一歩は使用済み電池の診断査定です。つまりリユース可能かリサイクルに回すべきかの判断と、リユースの場合は、安全性を含めた残存性能と余寿命の評価が必要になります。また、リサイクルのためには効率の良い高精度の分析は必須の技術です。

さらに、現在は電池の種類や仕様は千差万別で市場は全くのカオス状態になっています。しかし、長期的には低コスト化や互換性の点から、規格化はいずれ重要な課題になってくると思われます。そのような状況に何が必要で何が不要になるのかを考えておくことも重要と思われます。

どのように状況が変化しても、分析は現象を理解する基本であり、新規開発から、不良対策、事故原因解明まで幅広く利用されるものですから、変化に対応する準備さえあればその活躍の場は今後とも広がり続けると考えられます。

 

聞き手:企画マーケティングユニット 大津聡

   
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